ここ数年で、フィードバックという言葉はずいぶん日本でも浸透してきたと感じます。
今では、仕事をするうえで周囲からフィードバックを受けることも、自分が誰かに対してフィードバックをすることも、当たり前になってきました。
事実をありのままに伝えるフィードバックは、コーチングにおいてコーチに求められる重要なスキルの一つです。
クライアントと対話しながら感じたことを率直に言葉にすることで、クライアントの視野が広がったり、思いもよらなかったアイデアに結びついたりすることは少なくありません。
大企業のトップともなれば、社内の人間からはなかなか率直にものを伝えにくくなるもの。「裸の王様になりたくないから、自分に耳が痛いこともきちんと言ってほしい」と、コーチングを始めるエグゼクティブもいます。
ところが、そこに危険が潜んでいるのです。
フィードバックは、クライアントの目標達成を進めるために行います。ところがフィードバックを受けてクライアントが考え込んだり黙り込んだりすることを「効果」と捉えてしまうと、いつしか「クライアントにショックを与える」ことが目的にすりかわってしまう可能性があります。
プロのコーチになって間もない頃は、フィードバックしたクライアントが表情を変える様子を見て、なんだか自分が偉くなったような勘違いをしてしまうことがあります。自分よりずいぶん年上の、しかも有名企業のエグゼクティブ。そんな方が、自分のフィードバックを受けて心が揺らいでいる。その感覚は、抗いがたい快感になりがちです。
フィードバックは言い訳を招く
心が揺らいでいるなら、フィードバックの効果は十分では?
そう思うかもしれません。そこでもう一度、なぜフィードバックを行うかという目的に立ち返って考えてみましょう。
厳しいフィードバックを受けたら、人はどんな行動をするでしょうか。
真摯に受け止め、自分の行動の改善に取り組むと思いますか?
私の経験では、フィードバックを受けたクライアントの大半は、受け止めている様子を見せながらも、反射的に言い訳を探します。
たとえば「あなたの説明はわかりにくいですね」と言われたら、「ちょっと専門用語が多くなってしまいました」とか、「部下に説明するときは、もっと丁寧にやっています」とか。
これは心理学的にも正しい行動で、批判を受けた時、人間はとっさに自分の心が傷つくことを防ごうとするそうです。
でも、言い訳は行動に結びつきません。フィードバックの目的はクライアントの意識変容や行動変容なのに、言い訳を誘発してしまっては意味がないのです。
では、どうしたら効果的なフィードバックになるのか。
私が意識しているのは、「フィードバックと質問をセットにすること」です。
「あなたの説明はわかりにくい」と言うより、「さっきの話が私にはよくわからなかったのですが、もう一度説明していただけますか?」と言ったほうが、「あれ、自分の話はわかりにくいのだろうか」とクライアントの意識は、より自分自身に向くのです。
「360°フィードバックを見ると、ビジョンが伝わってこないと書いてありますね」で終わるのではなく、「どういう状況になると、ご自身のビジョンへの意識が低下しますか?」と質問をつける。「このようなネガティブなコメントは、部下がどんな感情を持った時に起きると思いますか?」という質問もよさそうです。
大切なのは、クライアントにショックを受けさせることではなく、意識を変え、行動してもらうこと。そのスイッチは、やっぱり質問にあるのです。