以前の記事「エグゼクティブ・コーチングが失敗する原因」にて、「目標設定」の大切さについてお伝えしました。これまでコーチングを実施する中で、コーチングで高い成果を上げるためには、目標設定も含めて、特に以下の3つのが重要だと考えています。
1.目標設定:「成果目標」と「成長目標」の両方を設定する
2.行動変容:クライアントが解釈を再解釈し、行動変容を行う
3.習慣化:新たな行動を習慣として定着させる
本記事では、上記の2つ目「行動変容」について考えていきます。
行動の前に「事象/コト」がある
コーチングにおいて成果が上がるとは、つまりこれまで得られていなかった結果を得るということは、その背景に何らかの「行動」の変化があったということです。逆に言うと、新たな気づきがあったとしても、その後の行動の変化に繋がっていなければ、本当の意味で変化が起こったとは言えません。
それでは、人が行動をする時に内面で何が起こっているかを理解するために、一般的な行動のプロセスを整理してみましょう。
仕事やプライベートを問わず、人は他人との関わりの中で日々生活をしています。外で起こる何らかの「事象(=コト)」が先にあり、それに対して反応する形で「行動」が選択されます。
例えば、何もないところから突然朝走り始めるのではなく、誰かとの会話の中で健康について考えさせられたり、街を歩いていて自分の理想とする体型の人を見かけたり、映画を見て成長欲を刺激されるなど、外にある事象が先にあり、その後に行動が生まれるイメージです。ただし、「コト」も「行動」もあくまで表面化している要素でしなく、大切なのはその水面下で起こっている事柄です。
図1.「コト」と「行動」は表面化している要素
内面で起こっているプロセス
では「コト」から「行動」に繋がる時、その水面下では何が起こっているのでしょうか。水面下で起こっていることを、「信念」「解釈」「感情」という要素に分けて考えていきましょう。
図2.水面下で起こっていること
例えば、ある経営者が社外取締役に「あなたの経営方針を変えるタイミングに来ているのではないか」と意見を言われ(コト)、「私の経営方針は間違っていません」と感情的に返答をしました(行動)。 この時に内面で起こっていた「信念」「解釈」と「感情」を整理すると、
•信念:バカにされたくない。人前で否定するのは悪だ。社長がネガティブな印象を持たれるのは良くない。
•解釈:バカにされた。人として、社長としてダメだと否定されているに違いない。
•感情:羞恥、怒り、悔しさ、「相手の主張が間違っていると証明したい」気持ち。
コーチングがアプローチするもの
コーチングでは、まさにこの水面下のプロセスにアプローチしていくことが重要です。
・感情:
その行動をした時にどんな感情が強かったのか。その感情になりやすいのはどんな時か。もし普段はその感情を持たないのなら、何が今回は違ったのか。その時を振り返りながら自身の感情を再認識していきます。
•解釈:
上記の感情の背景には物事へのどのような捉え方があったのか。そしてその捉え方は、本当に正しいのか。他の捉え方はできないか。例えば「社外取締役は会社の成長のためにあえて苦言を意呈していた」と捉えると、「自分が否定されたわけではなく、社長という役職に求める要素をアドバイスされたのでは」といった他の解釈へと繋がるかもしれません。
•信念:
そのことから分かる「あなたが物事を見がちな傾向」とは何か。どんな信念を持っているからこそ、それが起こっているのか。例えば、「他人を否定してはいけない」という信念が前に出ることで自分はどんな解釈をしがちなのか」に気づくことができます。
コーチングセッションを通して対話を繰り返していくことで、「信念」により取りがちな「解釈」の傾向を認識し、「コト」を再解釈することで、そこから発生する「感情」が変化し、結果として行動の変容に繋がっていきます。
本当の変化に繋げるために
コトの捉え方を変え、解釈を再解釈することで行動変容に繋がるということをお伝えしましたが、短期的にコトの捉え方が変わっても、自分自身への捉え方(=自己認識)が高まらなければ、本当の意味での変化は起こりません。
自己認識を高めるには、周囲から積極的にフィードバックを受けに行き、「自分がどのように物事を捉える傾向がある人間なのか」「自分はどんな信念を持った人間なのか」について解像度を上げていくことが大切です。
自己認識が上がり、自身の解釈→感情→行動の傾向を把握することで、感情に左右されずに目的に沿った行動を選択する精度が上がっていきます。特に業績や組織文化へ影響力が大きい経営者は積極的にフィードバックをとりに行き、自己認識を高めることで、組織全体に適切な行動変容をもたらす必要があるのではないでしょうか。