いい質問がしたい!と思ったら HINT

いい質問がしたい!と思ったら

いい質問がしたい!と思ったら

「どうやったらいい質問ができますか?」

エグゼクティブ・コーチをしていると、よく聞かれる質問です。
コーチたちからはもちろん、ときにはクライアントからも尋ねられます。

コーチングといえば、コーチの問いによってクライアントが気づきを得たり、変化を遂げたりするのが成功というイメージが強いので、自分の“いい質問”で、クライアントがまるで雷に打たれかのようにはっとなり、考え方が変わっていくことがコーチにとっても理想になりがちです。

この“いい質問”というのが、曲者なのです。

そもそも、世の中に“いい質問”ってあるのでしょうか。

いい質問は存在する――でも、コーチが狙っていい質問をすることはできない、というのが私の考えです。
クライアントから「数年前に聞かれたこの質問は、ずっと覚えている」と言われることもありますが、それは決して「いい質問をする」ことを目指した結果ではありません。

ドキッとしているのはコーチ自身

いい質問をしたいとコーチが考えるとどうなるか。

まず、事前に質問を決めてしまうようになります。コーチが「これはいい質問だ!」と思う質問を事前に用意するようになるのです。
たとえばファイナンスが苦手なクライアントに対して「世界中のCEOのなかで、あなたのファイナンスの強さは何番目でしょうか?」という問いを考え、なんだかよさそうだと満足する。でもそれでドキッとしているのはコーチ自身で、クライアントではありません。

さらに、いい質問が用意できたと意気込むと、その質問をすることがコーチングセッションの目的にすり替わります。

どうするとこのいい質問を投げかけられるだろうか、今だろうか、いや、もうちょっとファイナンス全般について話をしてからかな……。
そんなことを考えているとき、コーチの意識のほとんどは自分の内面へと向いています。

その結果クライアントとの対話で起きていることを捉え損ね、クライアントの目標達成という本来の目的から遠ざかってしまう。
いい質問をしたいと願うほど、本当にいい質問ができなくなるという、皮肉な結末です。

コーチングのあいだ、コーチはクライアントの話に耳を傾けるだけではなく、表情や姿勢、動き、声の大きさや言葉の選び方など、ノンバーバル(非言語)にもかなり意識を向けています。耳だけではなく、全身で相手を受信しているような感覚といえばいいでしょうか。

なんだか不安そうだなとか、本当はもっとこのテーマについて話したいのではないだろうか、おや、この話題からは逃げたいようだなど、セッションでぐっとアクセルを踏み込むタイミングは、たいていノンバーバルな情報からもたらされます。

それはコーチングが“生き物”だから。そこに台本はありません。コーチとクライアントの対話によって、その場で生まれてくることを大切にしなければ、決してうまくいかないのです。

コーチングと釣りは似ている!?

そしてもうひとつ。「いい質問」はそれ単体で存在するのではなく、その質問を“いつ”するかとのかけ算です。

たとえば取締役についていろいろ話している時、クライアントの頭の中には役員室の様子、集まったメンバーの顔、会議でのコミュニケーションなど、取締役会のイメージが具体的に浮かんでいます。その瞬間に「社外取締役のなかで、あなたが気になっている人は誰ですか?」と尋ねると、「あ、〇〇さんかな」とキーパーソンの名前がするっと出てくる。

ところがまったく違う場面で同じ質問をしても「うーん、どうかなあ。特にいませんね」で終わってしまう。イメージが広がっていない状態では、クライアント自身も答えを見逃しているのです。

対話はどこに進んでいくかわかりません。「この質問をするぞ」と肩に力を入れてコーチングセッションに臨むのではなく、できるだけ自然なコミュニケーションを行いつつ、クライアントの情報を受信しながら掘り下げていく方が、コーチとしてもいろいろな気づきが生まれ、いい質問につながっていくのだと思います。

もちろん、いい質問につながる準備はできる限り行います。
クライアントの顔を思い浮かべながらキーワードを書きだしたり、何十、何百という質問を並べてみたり、関連しそうな書籍を読んでみたり。そうやってタイミングがきたときに取り出せるようにたくさんの質問を蓄積しつつ、クライアントを目の前にしたらいったんすべてを手放し、受信に集中する。準備というより、トレーニングに近いかもしれません。

できる限りのトレーニングを行ったうえで、当日はクライアントの様子を全身で捉え、「その時」を見逃すことなく、流れに沿ってすっと質問を投げる。
最近、あらゆる種類のルアーを用意しておいて、水温や気温、風や魚の状態に合わせて、その時にベストのルアーを使う釣りと、コーチングとは似ているんじゃないかなと思っています。自分のルールで進めていたら、絶対にうまくいかない。主役はコーチではなく、クライアントなのですから。