信念を変えなくても、行動は変えることができる HINT

信念を変えなくても、行動は変えることができる

信念を変えなくても、行動は変えることができる

コーチングの成功のカギは、目標設定です。

ある企業の社長は、「取締役会の全員が賛同する後継者を選ぶ」ことを目標に定めました。

コーチングでは、達成したかどうか明確に判断できるこうした“成果目標”と同時に、そのためにクライアント自身に必要な変化や成長、つまり“成長目標”も設定します。

しかしこの社長は、成長目標を定めることができませんでした。
後継者を選ぶために、自分自身が変化する必要があるとはまったく思っていなかったからです。

社長は、後継者候補が出てくるたびに、「Aくんはここが足りない」「Bさんはここができない」などと指摘し、取締役会で否決されるパターンの繰り返し。

「自分は優れた後継者を選びたいと心の底から思っている」と言いながらも、その阻害要因となって立ちはだかっていたのは社長自身だったのです。

では、なぜ社長は、欠点ばかり指摘してしまうのでしょう。 エグゼクティブ・コーチングのセッションの中で見えてきたのは、「自分はいつも、社内で最も重要な人物として見られるべきである」という強い信念でした。

信念には、正しいか間違っているかしかない

信念とは、人間が「これが正しい」と強く思っていることです。
人間なら誰にでも、信念の1つや2つ……それどころか10も20あっても不思議ではありません。

信念=正しい(と信じている)ことなので、それ以外は「間違い」になってしまう。合っているか正しいか、2つの選択肢しか生み出さないのが信念です。

たとえば、「上司は部下を厳しく育てるべきだ」と信じていたら、部下にやさしく接するタイプの上司を見るとイライラして、やり方を変えさせたくなるでしょう。「若いうちは、無理をしてでも仕事をするべきだ」という信念があると、定時で退社する社員に対して、無意識のうちに残業を強いているかもしれません。

この社長の場合、「自分が最も重要だと見られるべきだ」という信念があるので、周囲の人間の欠点をまず指摘し、相対的に自分の立場を高める行動がパターン化していたのです。

さまざまな経験や体験から人間の信念は形成されてくるので、自分がどういう信念を持っているのか多くの人は気づいていません。この社長も「そんなことは思っていない」と最初は否定していました。 コーチとの対話を通して自分の行動とその時の感情を捉えていくことではじめて、「もしかして、そうなのかも」と思うことができたといいます。

行動を選択できるようになる

しかし、重要なのは、信念を変えることではありません。
自分にどのような信念があるのかを認識することが大切なのです。
その上で、自分の成長目標を定めるのです。

後継者を選ぶ(=成果目標)ために、他者の欠点ではなく、いいところにも目を向けられるようになる(=成長目標)。目標がカチッと決まったのは、コーチングの開始からしばらく経ってからでした。

そして、何が起きたか。

信念と結びついて続いてきた行動パターンはいわば生物としての反応でもあり、そうすぐには変わりません。でも、「欠点を探している」自分を意識できるようになったことで、欠点を探していると後継者が決まらない=目標が達成できない=一呼吸おいて、いいところを探してみよう、とこれまでとは違う行動を選択できるようになったのです。

その後は後継者も決まり、成果目標も達成されました。

あとからコーチングについて振り返ったとき、このクライアントは「コーチと話すことでそれまで認識していなかった自分というものについて考えるようになったし、周囲や家族との関係も改善された。最初は後継者を選ぶことだけが目標でしたが、大きな副産物が手に入った気分です」と、微笑んでおっしゃっていました。

信念を変える必要はありません。それでも行動は変えることはできるのです。