「コーチングって、自分のよくないところを指摘され、直されるものでしょう?」
そう言ってそう言って顔をしかめる経営者もいますが、これこそ大きな誤解です。
「弱み」の克服よりも「強み」を徹底的に磨くことに集中する
大勢の前で話すのが苦手、英語が苦手、財務が苦手・・・。誰でも自分が弱みだと感じることはあるものです。
しかし、もしあなたがすでに経営者として仕事をしている人であるなら、よほど重要なものでない限り、あなたの弱みの克服に時間をかけることはお勧めできません。
短期間で成果を上げることが求められている経営者にとって「時間」は最も重要な資源です。弱みを克服し、それを成果に結びつけるには多大な時間を要します。
弱みの大部分は、それを強みとして持っている人に任せ、自分自身は武器として持っている強みを徹底的に磨くことに集中するという発想のほうが、より早く成果に到達しやすいのです。
コーチングセッションの間、私達は常に「このクライアントの強みは何か?」を考え続けています。
社長の「強み」が成功に導いた社員との“双方向ブログ”
以前、こんなことがありました。
売上5000億円を超えるある上場企業の社長は、複数の役員から「社長が考えていることを社員にもっと話して欲しい」と言われ、困惑していました。外資系企業の買収や、創業期から続く事業の売却を行ったばかりで、社員で不安が高まっていた時期でした。
「各拠点を回って拠点ごとに対話会をするのはどうでしょうか」、「希望者を集めてオンラインで対話会をするのはどうでしょうか」と複数のアイデアが出ましたが、社長は首を縦に振りません。
この社長のコーチングでわかってきたのは、大勢の人の前で話すことに対する強い苦手意識でした。
この方の強みは何か――見えてきたのは、文章を書く能力が非常に高いことでした。学生時代に作家を目指していたこともあるこの社長は、的確な文章を、とても速く作成する能力に長けていました。
この強みを活かそうと、社長が出したアイデアは「社員のだれもが返信できる“双方型ブログ”を始める」ことでした。当初、周囲はこれに大反対でした。社長が自分自身でやり取りするとは、一体どれほどの時間をここに割くつもりなのか、否定的な社員の意見が全社員に公開されると悪い影響が出るのではないか、社長と社員とのやり取りが簡単にコピーされて外部に漏れてしまう、など多くの役員がこれに否定的でした。
そんな声には耳を貸さず、退任するまでの約3年間、社長は必ず週に2回ブログを更新し、ときに100通を超えることもあった社員からのコメントにも返信し続けたのです。 どこにいても読むことができて、社長からの返信もあるこのブログは、社員からの評判もよく、「社長の考えがわかるようになった」「社長との距離が縮まった」との声が聞かれました。
エグゼクティブ・コーチングで「強みの活かし方」を手に入れる
経営者に必要なのは、自分の強みは何なのかを客観的に認識し、強みを武器にして課題と向きあい、解決していくことです。どれほど成功体験を積み重ねた経営者でも、真面目で誠実な人ほど自分の弱みに目を向けがちです。「自分の強みをもっと活かそう」と常に考えている人は多くはありません。
「強みの活かし方」を考えるプロセスを共に歩む存在がエグゼクティブ・コーチであり、徹底的にテイラーメイドで行われるコーチングセッションなのです。当たり前ですが、全ての経営者が双方型ブログを書けば、エンゲージメント・サーベイが上がるわけではありません。事実、先の社長が退任したあと、次の社長はこの”双方向ブログ“をやめてしまいました。
「それをあなたの強みで解決するとしたらどんな方法がありますか?」
私達はエグゼクティブ・コーチとして、経営者にそう問い続けています。 弱みを何とかしようと歯を食いしばるよりも、強みを思いっきり生かして課題を解決していく。その方が圧倒的に高い成果を出せると思うのです。